恋におちるまで

三年前の春 

 

私は恋をしていた。

 

 

たぶん。

 

 

その恋を終わらせ、

転勤で慣れ親しんだ街を離れた。

 

 

泣きながら運転したのを

覚えている。

 

 

あの時は、確かに悲しかったのだ。

確かに。

 

 

新しい街。

前の街より少し賑わい、活気があり、便利な街。

 

 

それでも私には、魅力的ではなかった。

 

散歩をしながら、前の男を思い出し

せつなくなっていた。

たぶん。

 

 

本当のことを言うと

 よく覚えていない。  

新しい出会いに胸を躍らせていたかもしれない。

 

 

だけど彼に初めてあった時のことは

よく覚えている。

はっきりと。

 

 

静かな人だと思った。

落ち着いていて、知性が感じられた。

目からは、情熱を。

これは、はっきりと覚えている。

 

 

あの時の感情もトキメキも

はっきりと。

 

 

恋におちるまでに、時間はかからなかった。

 

 

 

 

指輪はなかった。

 

大切な人などいないのだろう。

 

そう思っていた。